僕だけが知っている

【お題:「誰もいない部屋で」「二人、手を握りながら」「恋をした」】
【時間:ー】

◆◆◆

ガラリと視聴覚室のドアを開いた。
窓から差し込む赤い夕日に思わず目を細める。赤い空に切り取られるように、窓際に影があった。
彼女は僕に気づくと、ぱぁっと表情を明るくして言った。
「待ってたよ、佐山くん、遅かったね」
「ごめん、展示会前だから絵を仕上げなきゃいけなくて、遅くなった」
彼女はいつものように、窓際のロッカーの上に腰かけて、足をブラブラさせていた。
「よいしょ」
僕も彼女の隣に腰かけた。彼女は僕の顔を覗き込むようにして言った。
「展示会いつだっけ?」
「来週だよ」
「そっか、頑張ってね……私は見にいけないけど」
彼女はそう言うと少し悲しそうに笑った。
「完成したら、ここに持ってくるよ」
僕がそう言うと彼女は嬉しそうに笑った。
「え、ほんと?」
「うん」
「やったー!楽しみにしてるね」

それから僕たちはいつものように、とりとめのない話をした。
ふと、彼女が僕の手に触れた。氷のように冷たい手だった。僕は彼女の手を握りかえす。
「ねぇ、これからもずっとこうしていようね」
「うん、僕らはずっと一緒だ」
彼女は僕の言葉に微笑むと、顔をゆっくりと近づけてくる。
チュッと唇が触れるだけのキス。
ゆっくりと唇を離すと、僕は彼女の頬に触れた。
愛しい愛しい彼女を目の前にして、気持ちが溢れ出る。
「好きだ」
「私も好き」
僕たちは再び優しいキスをした。

「なぁ、俺さ、見ちゃったんだけどよ」
「え、なになに?」
「佐山、あいつさ、美術部終わると最後まで残ってるじゃん」
「そうだね、真面目だよね、佐山君」
「でもさ、残ってるわりには絵の進捗そんなに進んでねぇじゃん」
「……ああ、たしかに言われてみれば」
「だろ?で、そんな遅くまで残って何してんのかな、って思って、俺、帰ったふりして美術室のそとで見てたわけ」
「なにそれストーカーじゃん」
「そしたらさ、佐山、早々に片付けして、ひとりで美術室でた後、何故か旧校舎に向かったわけ」
「え?なんで旧校舎?」
「佐山、視聴覚室に入っていったんだよ、で、ちょっとドアが開いたままだったからさ、覗き込んだらさ、佐山、あいつ、誰もいないのに、ひとりで楽しそうに話して笑ってたんだよ」

 

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