悪夢

【お題:『風邪』『ノイズ』『ムカデ』】
【時間:ー】

◆◆◆

気づいたら、知らない場所にいた。
どこかの地方都市のようだ。妙に薄暗い。曇り空。人はそこそこ多いのに、何故か活気がない。人々の顔には靄がかかっているように、ボンヤリとしていて表情が見えない。
その時、突然目の前に小学校の頃仲のよかった高橋くんが現れた。
「どうする?席替えする?」
「席替え?」
「うん、だって、プール行きたいじゃん?」
高橋くんの発言は支離滅裂だった。それに、僕はもう20歳になっているはずなのに、目の前の高橋くんの姿は当時のままだった。高橋くんの右手には、当時流行っていたバトル鉛筆が握られている。
「プールは嫌い」
僕がそう呟くと高橋くんは、急に奇声を上げて走り出し、人混みに消えてしまった。
「高橋くん、待ってよ!」
僕は人混みをかき分けながら、高橋くんの姿を探した。
「あれ?」
いつの間にか僕は森の中にいた。鬱蒼とした木々。生暖かい風が吹いて、葉がカサカサと音をたてていた。僕は急に不安になった。
「どこ?」
その時、急に、キュイーンガガガガガと機械がバグったようなノイズが響いた。耳を塞ぐけど、直接脳内から聞こえているようで、ノイズは鳴りやまない。
「うるさい、うるさい、うるさい!」
僕は走り出した。どこの走っても、木、木、木。しかもどの木も同じ形をしている。僕は怖くなった。
「ねぇ、どこにいるの?誰かいる?」
叫んだけど、誰もいないみたいだった。
その時、ボトリと何かが上から落ちてきた。恐る恐る上を見上げると、何故かコンクリート製の天井があって、その天井の一部で、黒い何かがうじょうじょ動いた。その黒い塊から、ひとつ、またひとつとボトボトなにかが落ちてくる。
落ちてきたのはムカデだった。
「ひっ!」
僕が叫ぶと、コンクリートの天井からウジャウジャとムカデが湧き出てきて、次々と、雨のようにムカデが落ちてくる。避けきれずムカデが肩に落ちた。首にムカデの足が刺さる。
「やめてくれぇ!」
ムカデを振り払ったけど、どんどんムカデが落ちてくる。
「やめて!だれか!だれか助けて!」
必死に叫ぶけど誰も助けに来てくれない。
「助けて!助けて!」

「たすけて!」
はっと目を開けると、僕はベッドの上に寝ていた。ひどい汗だ。スウェットが汗でぐっしょりと濡れている。ふと枕元を見ると、飲みかけのペットボトルのポカリスエットがあった。
「そうか……」
そういえば、昨日バイトから帰って来たら急に寒気がして、ひどい頭痛に襲われた。熱を測ったら38度だった。大学が夏休みに入ってから、昼夜逆転した不摂生で自堕落な生活を送っていたせいで、風を引いたのだ。僕は重い身体を起こすと、壁に背中を預けて、ぬるくなったポカリを飲む。
ふぅ……。
まだ夢の中で見た、ムカデの感触が首に残っている気がした。まだ身体は重く、だるい。こんな状態じゃ明日のバイトは無理だろう。休むと連絡しなくては。ただでさえバイトが少ないのに、休みたいなんて言いにくいなぁ。でも無理なものは無理だからな。
僕はため息をつくと、ベッドの下に落ちていたスマートフォンを拾って、バイト先の番号をタップしたのだった。

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