【お題:『戦友』『入道雲』『ワイシャツ』】
【時間:ー】
◆◆◆
レストニア帝国空軍第三基地。
その日の午後の訓練は午後14時には終了した。夕方から帝国軍と政府高官とそのご子息を含めた合同パーティーが開かれるからだ。帝国軍上官と会場の警備を任される一部の兵士以外は、実質午後はフリーとなる。兵士たちは久しぶりの休みに心踊らせていた。
一方、警備を任された兵士たちは、着慣れないスーツに身を包んでいた。せっかくの休みの機会を逃してしまって不満を言う者もいるが、警備にあたることで、政府高官のご令嬢と出会うチャンスにありつけるので、自ら警備を志願する兵士も大勢いた。
「ジェヌバ、貴様!」
入道雲がわきたつ夏空に、怒鳴り声が響いた。
訓練を終えた兵士同士の憩いの場となっている格納庫の裏のスペースが、今日は一段と騒がしかった。
一等兵シュトールが怒鳴りながら、同じく一等兵のジェヌバの胸ぐらを掴みかかっていた。2人とも、合同パーティーの警備を命じられていることもあり、訓練服から、式典用のYシャツに着替えていたところだった。
「先ほどの訓練は何だ!何故貴様はいつも指示通りに動かない!」
ジェヌバはチッと舌打ちをすると、シュトールの手を払いのけて言った。
「バーカ、実際の戦争が訓練のシナリオ通りに進むわけないだろ、必要なのはその場の状況を瞬時に把握して臨機応変に対応することだ。事実、装置トラブルのせいで俺らの隊のうち2機が作戦通りに動けない状態だったろ」
面倒くさそうにため息をついたジェヌバに対し、納得がいかない様子のシュトールは声を荒げた。
「臨機応変に対応する、それは俺も百も承知だ!だが、貴様が取った行動は臨機応変ではない、貴様の勝手な単独行動だろうが!」
ジェヌバは片眉をつり上げながら言った。
「はぁ?結果的にこっちが勝ったんだからいいだろうが」
シュトールは怒りをあらわにして言った。
「勝てばいいというものではない!現に今回は」
するとそれまで静かだったジェヌバが、シュトールの言葉を遮るように言った。
「戦争は勝ってなんぼだろうがよ!マニュアルに囚われすぎるテメエのやり方じゃ、勝てる戦も負けちまうよ!だいたいてめぇはマニュアルに囚われ過ぎなんだよ!貴族だからなんだか知らねぇが、親のすねかじりで有名な大学出ただけで、ただの頭でっかちのウスノロじゃねぇか!」
「なんだと!操縦テクニックばかりで、まったく学のない、貴様のような猿頭に言われる筋合いはない!」
ついに2人は取っ組み合いの喧嘩を始めた。
2人のチームメイトたちは「ああ、また始まったよ」と半ば呆れた様子で誰も止めに入ろうとする者はいなかった。それどころか
「俺はシュトールが勝つに、500トニア賭ける」
「俺もシュトールに500」
「じゃあ俺はジェヌバに600トニア」
「いや、俺はあえて引き分けに300トニア」
などと賭けをはじめる始末である。
昨日雨が降ったせいか、地面には所々水溜まりができている。2人が暴れるので、そばにいた兵士たちに泥が飛んだ。
「おい、せっかく着替えたのに泥がついたじゃねぇか、やり合うのは勝手だが、あっちでやってくれよ」
兵士の一人が不満の声をあげたが、ジェヌバとシュトールの耳には届いていないらしい。
「だいだいてめぇは出会ったときから、その人を見下すような態度が気に食わなかった!」
「なんだって?それをいうなら貴様の野蛮で粗野な思考回路をどうにかしろ!」
「はぁ?!」
「くそが!」
バシャン!
と大きな音がしたかと思うと、二人が水溜まりの上にもつれ合うように倒れた。
それを見ていた者が「あーぁだから言わんこっちゃない」とため息をついた。
せっかく式典用のシャツに着替えたのに、アイロンが効いた綺麗なシャツが泥まみれになっていた。全身泥だらけになった二人は、そこでやっと冷静になったようだ。ゆっくりと身体を起こしてため息をついた。
「はぁ……泥だらけじゃねぇか。ったく、これから夜通し警備だっていうのに余計な体力使わせやがって」
「それはこっちの台詞だ」
互いに文句を言い合っていた二人だったが、しばらくして互いに顔を見合わせ、微かに笑い合った。
これが彼らなりのスキンシップ方法なのだろう。互いに素直でないのだ。
そんな二人の喧嘩に賭けていた兵士のひとりが「引き分け!俺の一人勝ちだな!ほら金よこせ」と言いだした。至る所から舌打ちが聞こえ、賭けに負けた兵士たちはしぶしぶ賭け金をポケットから取り出したのだった。

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