【お題:『景色』『青』『難易度』】
【時間:ー】
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何かに挑戦したり努力したことに対して、それ相応の結果や評価が貰えるのは学生までだ、と社会人になってから気がついた。社会に出てからは、頑張っても結果が出なかったり評価されなかったりすることばかりだ。そのせいか、私は挑戦することをいつの間にかやめていた。社会人になって数年の間、死んだように生きる日々を過ごしていた。学生時代から付き合っていた京ちゃんとは、段々と会う回数が減っていき、喧嘩をするほどの情熱も失ってしまった。ある日京ちゃんから電話がかかってきて開口一番に「別れよっか」と言った。自分でも驚くくらい何の感情もわかなかった私はあっさりとそれを了承した。「うん、そうだね、今までありがとう」
京ちゃんから電話を切って、何となくテレビをつけた時、画面に、葉が青々とした雄大な山が映し出された。今をときめく若手女優さんが、山登りする企画だった。その女優さんは、特にファンでもないし、山登りも興味がなかった。だけど私はその番組を最初から最後まで見てしまっていた。そして、ふと「私も山登ろう」と思ったのだった。
それからの私は行動が早かった。翌日、私は仮病を使って会社を休み、その足でスポーツ用品店に向かい、マウンテンパーカー、レギンス、キュロットスカート、登山靴、リュック、帽子を買いそろえた。そして週末には、ひとりで、その女優さんが登っていた山へと向かった。どうやらその山の難易度としては、中級者向けの山らしい。私はまったくの初心者だったけど、その山にどうしても登りたかったので、特攻した。
その日は快晴だった。初夏ということもあり、山の木々は青々としていて、木々や花々からエネルギーが溢れているように見えた。私と同じようにひとりで登山に来ている人もたくさんいて、その人たちのあとを着いていきながら、登った。運動不足の身体には相当こたえた。登り初めて20分もたたないうちに、ふくらはぎがプルプルしはじめた。だけど投げ出そうとは思わなかった。風の音と、どこかから聞こえる鳥のさえずりに耳を澄ませながら、私は、ゆっくりだけど、確実に一歩ずつ山頂を目指した。登り始めて2時間経った頃、視界が開けてきた。顔を上げると、綺麗な水色の空が見えた。もうすぐ山頂だ。私は額の汗を拭いながら、一歩、また一歩進んだ。
「……ついた」
山頂から見下ろした景色は最高だった。自然と笑みがこぼれる。初めて挑戦し、自分の力で登り切ったことへの達成感と、程よい疲労感が最高に気持ちいい。こんなに爽やかな気持ちになれたのはいつぶりだろうか。私はもう一度肺にいっぱい空気を吸い込んで、大きく吐くと、目を開いた。
眩い太陽、どこまでも続く青空、美しい木々。その景色を見つめながら、私は次に登る山のことを考えていた。

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