【お題:『男』『短歌』『ランプ』】
【時間:200分】
◆◆◆
頬に柔らかい風があたる。さらさらと葉が掠れる音に耳を澄ませながら、俺は、ゲーテの詩集を読んでいた。この寮の卒業生が残していった本ということもあって、所々のページに書き込みがある。その中には、恋しい誰かへ向けた苦悩のポエムが書かれていることもあり、悪いとは思いつつも思わずクスリと笑ってしまう。
ここは寮の書庫兼、物置部屋だ。この寮を卒業して行った先輩方が残していった小説、詩集、専門書が戸棚に保管されている。しかし年々卒業生がおいていくこともあり、戸棚には入りきらなくなり、今では床の上に山積みにされている。年末の大掃除の時しか掃除をしないので、若干埃っぽい。
猛勉強のかいあり、ナンバースクールの頂点に君臨するこの第一高等学校に合格した俺は、東北の田舎からここ東京にひとりでやってきた。どの生徒も勉強熱心で、そして変わった奴らが多い。ここでの寮生活は刺激的で楽しいが、しかし、たまに誰かと一緒にいることが疲れてしまうことがある。そういう時はこの倉庫にひとり閉じこもって過ごす。ここは寮の外れにあり、滅多なことがない限り人がやってこない。ここでは落ち着いて、ひとりを満喫できるのだ。
パタンとゲーテの詩集を閉じて、壁に背中を預けた。遠くの方で寮生が騒ぐ声が聞こえる。おそらく今後の日本のあり方について討論をしているのだろう。ここの学生は官僚を目指している者が多いせいか、討論好きが多い。俺は官僚などには興味がなく、討論もあまり得意ではない。学者志望だ。だから、そういつ奴らとは少し馬が合わない。だからこうして、薄汚い部屋で一人本を読んでいるのだ。
「……ん?」
ふと、戸棚と壁に隙間にノートが挟まっていることに気づいた。
「こんなものあったか?」
一週間前にここに来た時はなかったような気がする。見落としていただけかもしれないが。
俺はそのノートを隙間から引っ張り出した。
「……」
表紙には何もかかれていない。みんな同じようなノートを使うので万が一無くした時、誰の物かわからなくなることが多い。そのため、ここの寮生は自分のものとわかるように、しっかりと名前を書く。しかしこのノートには何も書かれていなかった。それなりに使用感はあるが、それほど古いノートのようには見えなかった。
俺はそのノートを開いた。
そこには、短歌が書き込まれていた。
有名な歌人の短歌を書き写したものかと思ったが、どの歌も見たことのない歌だ。おそらく自作の短歌だろう。
「へぇ………」
俺はいつの間にか夢中になってそのノートを読んでいた。驚くことに、どの短歌も上手かった。
その時、廊下を歩く足音が聞こえてきた。老朽化が進んだ木造建築ということもあり、誰かが歩くと軋む音がするのだ。その足音は倉庫の前で止まった。
俺は慌ててノートをあった場所に戻した。
ノックも無しに、ドアが開かれる。
「柏木、貴様やはりここにいたのか」
そこに立っていたのは、同室の相原だった。
「何かあったのか?」
俺がそう聞くと、相原はわざとらしくため息をついた。
「忘れたのか、今日は総会だぞ」
すっかり忘れていた。
「ああ、そうだったな、すまない」
ひとりの時間を邪魔され少し残念に思いながらも、俺は立ち上がった。隙間に挟まったノートを見つめていると、「おい、早くしろ」と相原からせかされた。仕方なく、俺は相原のあとを追った。
目の前では、ほぼ喧嘩のような議論が交わされている。毎月、行われる総会は、ここ、食堂で行われることになっている。俺は一番後ろの椅子に腰掛けて、寮生たちの白熱する議論を見ていた。
先ほど俺を迎えに来た相原は、最前線に立ち、先輩たちにほぼ暴言のような言葉を浴びせながら必死に訴えている。
この総会では、寮の自治のあり方と、学校から与えられた予算の使い道について議論する。学校が寮に渡す金の使い道は、日本を支えていくだろう若者たちの自主性に委ねられている。
相原は先ほどから「野球部の予算をもっと増やせ!」と訴えている。彼は野球部に所属していて、そして一年生ながらもなかなかの腕だ。野球部の先輩からも期待されているエースである。「試合にでるために野球部のユニフォームの新調が必要だから野球部へもっと金をよこせ」というのが彼の主張だ。それに対し哲学部の部員は「野球なんて野蛮なスポーツに金を使うくらいなら、もっと有用な図書を充実させるべき!」と主張している。
「……はぁ」
結論はしばらく出そうにない。思わずため息が出た。ふと、窓際の方へ視線を移す。美しい金髪の男が、窓枠に肘をついて退屈そうに議論を見つめているのが見えた。
彼は、里崎奏だ。かつて彼の父親は在英国大使館の領事を努めていた。母親が英国人のハーフである。黒い坊主頭が多い中で、色素の薄い彼の髪は目立っている。
物憂げにしている彼の周りには、彼に好意を寄せているであろう取り巻きの男たちが囲んでいる。彼らも議論には全く関心がないようで、里崎の方を向いて何かを話しかけている。里崎はというと、彼らの方を見もせずに、短く相づちをうつだけだ。
モテる男も大変だな。
この寮では男子しかいないむさ苦しい環境の中に身を置くせいか、異性愛者だった者たちも、ここに入寮すると、同性愛に目覚めることが多い。しかしそれは一過性の病気のようなもので、ここを卒業すると、また異性へと関心が移るようだ。
半ば同情しながら、俺はその様子を遠巻きに見ていた。
ふと、突然、里崎がこちらを向いた。
視線が重なる。
薄い水色の瞳が、じっとこちらを見ている。
同性愛にまったく興味がない俺だったが、こんな瞳に見つめられては、妙にドギマギしてしまう。
しばらく見つめ合っていたが、取り巻きが何か里崎に話しかけたのをきっかけに、彼は俺から視線をそらした。
……一体何だったんだ。
俺の心臓はまだ余韻が残っているように、鼓動が早いままだ。
里崎と俺は同級生だが、あまり接点がない。俺は、理系でドイツ語専攻の理乙クラス、一方、里崎は文系の英語専攻の文甲クラスで、授業も被らなければ、部屋も階が違う上に遠い。あったとすれば、入学式でたまたま隣の席になったくらいだ。正直、俺は、里崎が苦手だ。苦手と言っても、会話もほとんどしたことが無いので、食わず嫌いと同じ。理由はないが、ただ何となく苦手なのだ。
何故これほど苦手意識があるのだろう。
あの日本人離れした容姿がそうさせるのだろうか。いや、いかん。そんな差別じみた理由で人を嫌うなんて。俺も人間が小さい。
「なんだと!?」
突然前の方で大声が聞こえたかと思いきや、ズシンと床が揺れるような音が響く。怒り心頭した相原が、机をひっくり返していた。
「お、いいぞ、やれやれ!」
面白がって野次馬のように騒ぎ立てるやつらもいる。
そんな彼らを遠巻きに見つめながら、俺は再び大きなため息をついたのだった。
その日も俺は、人付き合いに疲れて、あの物置部屋にいた。
ドイツ語の医学書を読むのに飽きた俺は、ふと、戸棚の隙間に見た。やはりそこにノートが挟まっている。
「……ん?」
前回、俺がそのノートをしまった時は、背表紙側をこちらに向けてしまったはずだ。しかし、今日は開く側が、こちらに向いてしまってあった。
俺以外の誰かが、このノートを見たということか?
「……」
なんとなく、気になってしまい、俺はそのノートを取り出した。パラパラとページをめくる。
「あれ?」
……短歌が増えている。
前回、読んだ時にはなかった歌が、5つほど追加されていた。どうやら俺の他に、この書庫を常用しているやつがいるらしい。
追加されたそれらの短歌は、どうやら、恋心を表現した短歌のようだ。
遠くで見ているだけで十分とか、君の隣で笑っている彼が羨ましいとか、そういう、奥ゆかしい歌ばかりだ。
まぁ、こんなところでこそこそ短歌を書いて隠しておくような奴だから、こういう奥手な恋の歌を詠むのも納得だ。
この寮内で俺と同じような生きづらさを感じている奴がいると思うと、妙に親近感がわいた。
しばらくその短歌を詠んでいた俺だったが、再びノートを隙間に隠した。
その日から、俺は書庫に行っては、そのノートをチェックするのが日課になっていた。短歌の数は順調に増えていった。相変わらず、秘めた恋心を歌う歌ばかりだった。
俺はそのノートを読んだあとは、わざとノートの背表紙側をこちらに向けてしまうようにしていた。
しかし、次の日やってくると、そのノートは逆側がこちらに向いていた。
この短歌を書いている相手も、この部屋を利用する誰かが、自分のノートを盗み見ていることには気づいているはずだ。しかし、何故かこのノートを別の場所に隠したりはしなかった。
……読まれていることを楽しんでいるのだろうか?
いや、こんなところでコッソリ短歌を書いているような奴だ。おそらく他の級友には見せたくないから、わざわざ隠して書いているのだろう。
それなのに何故?
俺は相手の意図がいまいち読めなかった。
ふと、新しく追加された二つの歌に目を通す。
今の関係で十分満足だ、すれ違い様に君のうなじにホクロをみつけた
というような内容の短歌だった。
本当に、こいつは報われない恋をしているな。
思わず苦笑してしまった。あまりにも不憫なので、こいつの恋路を応援したくなってしまった。
決して届くことが無いとわかっていたが、「まぁ、頑張れよ」といつの間にか笑いながらノートに話しかけていた。
ああ、これは俺も重傷だな。
そう思った俺は、再びノートを隙間に隠したのだった。
……眠れない。
布団に潜ってから1時間ほど経とうとしているが、どうにも眠れない。
二段ベッドの下の段に寝ている俺は、ぼんやりと上を見つめた。上段からは相原の大きなイビキが聞こえてくる。俺は上体を起こすと、ベッド横の上履きを履いて、立ち上がった。ギシっと板の間が軋む音がする。向かいの二段ベッドに寝ている二人も熟睡しているようで、起きる様子はない。
この部屋唯一ある窓からは、淡い月明かりが差し込んでいた。遠くで虫の声がする。
「……」
俺は、ベッド脇に置いてあったランプにマッチで明かりを灯すと、部屋を出た。
……静かだ。
時折、部屋の中から誰かの寝息が聞こえてくる。いつもはどこかの部屋から夜更かしをして討論する声が聞こえてくるが、今日は総会があったこともあり、皆、疲れて寝てしまっているらしい。
俺は音をたてないように注意を払いながら、ひとり薄暗い廊下を歩いたのだった。
俺は、あの倉庫を目指していたが、その途中、急に用を足したくなり、便所へと入った。
ランプを水道の上に置き、手を洗っていた俺は、ふと顔を上げた。
鏡の自分と目が合う。
ランプの明かりが、ぼんやりと俺の顔を浮かび上がらせている。幽霊など非科学的なことは信じない俺だったが、妙に背後が気になって後ろを振り返った。しかし、そこに何もいなかった。
「そりゃそうだよな」
俺はひとりで苦笑した。
再び鏡を見た瞬間、一瞬、自分の襟足が目に映った。
首をかしげて、鏡を覗き込む。右耳下のうなじ部分に、ホクロがあった。
「こんなところにホクロなんてあったっけか?……ん?」
ふと、俺はノートの短歌を思い出した。
あのノートに、確か、すれ違い様に君のうなじにホクロをみつけた、というような歌が書かれていたような。
「いや、まさかな」
俺は馬鹿馬鹿しくなり、首を振った。ランプを持って便所を出たのだった。
「……ん?」
倉庫近くまで来た俺は、ふと足を止めた。
というのも、倉庫から僅かに明かりが漏れていたからだ。
……どうやら先客がいたらしい。
引き返そうと廊下を振り返った俺だったが、思いとどまって、再び倉庫のドアを見つめた。
このドアの向こうにいるのは、もしかして、あの短歌の主なのではないだろうか?
ドアを開ければ、この名も無き歌人の正体がわかるのでは?
ドアノブに手を触れようとした瞬間、俺は思いとどまった。
お互い正体も知らない、無名の歌人と読者の関係を続けた方が楽しいのでは、と。俺はこの見えない関係が楽しくなっていた。この関係を壊してしまうのは勿体ないような気がした。
……しかし。
俺は、うなじに触れた。
まさか、まさかとは思うが、この短歌の主は、俺のことを書いているのではないか。そして、これも有り得ないことだと思うが、俺が、このノートを読んでいることを気づいているのではないか。
そんな考えが頭を過った。
俺はじっとドアノブを見つめたまま立ち尽くした。
さて、どうする?
「……」
数分ぐるぐると考え続け、俺は、決心した。
ドアノブを掴んだ俺は、ゆっくりと回した。
ガチャリ、キィー。
中で人が動く気配がした。
開いたドアから漏れた明かりが廊下に伸びる。
「……っ!」
ランプのそばに男が座っていた。
その男の手には、あのノートと鉛筆が握られている。
俺はゆっくりと視線を上げ、その男の顔を見た。
水色の瞳、金糸のような美しい髪。
……里崎奏だった。
「ま、まさか……」
あまりの驚きに、危うくランプを落としそうになった。
里崎は俺を見上げて一瞬はっと驚いたような顔をしたが、すぐにあのツンとした取り澄ましたような顔に戻った。そして静かに言った。
「早く閉めて」
「……え?」
動揺して聞き取れなかった俺は聞き返した。
語気を強めて里崎は言った。
「入るのなら、ドア、閉めてくれないか?」
「あ、ああ、悪い」
俺は里崎に言われるまま、ドアを閉めた。
ほこり臭い部屋に二人きり。俺は何故か緊張していた。
里崎は俺の顔を見上げると、はぁとため息をついてノートを床においた。
「それ……書いてたの里崎だったのか」
「そうだよ」
里崎は開き直ったようにそう答えた。里崎の堂々とした態度に、俺のほうが居心地が悪い気分になった。普通、かしこまるのは、この場合里崎の方なんじゃないのか。
「……」
俺はどんな反応をしていいのかわからなくなってしまい、その場に立ちすくんだ。
「立ってないで座れば?」
まるでこの部屋の主のように里崎は言った。
「ああ、そうする」
完全に里崎のペースだ。俺は言われるがままそこに胡座をかいた。
「……」
沈黙が流れる。
……気まずい。
目のやり場に困った俺は、ひたすた板の目を見つめていたが、耐えきれなくなり、里崎の方を向いた。
里崎と目が合った。
ドクン。
心臓が大きく跳ねた。
里崎は真っ直ぐに俺を見つめている。俺はその目からそらすこともできずに、じっと見つめ返した。このまま吸い込まれてしまうのではないか。そんな妙な気分になり、俺は慌てて首を振った。
自分の調子を取り戻すように、大きく深呼吸した俺は、里崎に言った。
「勘違いだったら悪いが……その短歌って」
俺の言葉を遮るように里崎が言った。
「そう、全部、柏木君、君のことを想って書いた歌だよ」
「えっ」
里崎ははっきりした口調で言った。動揺するのは俺だけで、里崎は悪びれた様子もなく堂々としている。こそこそ隠れて短歌を書いていた奴の言動とは思えない。
「ここを卒業するまで、秘めておくつもりだったのに、台無しだ」
里崎はわざとらしくため息をついた。
「す、すまん」
何故、俺が誤らなければならないのだろう。頭の中は疑問符でいっぱいだった。
……やはり、俺は里崎が苦手だ。
何を考えているのかさっぱりわからない。
しばらく黙っていた里崎はふと顔を上げた。
「……柏木君、君は覚えていないかもしれないけど」
里崎はそう言うと、じっと俺の目をみつめた。
「僕たちは、ここに入学する前に会っているんだ」
「へ?」
入学前に、この男とあったことがある?必死に思い返したが、そんな記憶はどこにもない。
「覚えてなくても当然だよね、まだ小さかったし」
里崎はため息をついて、少し悲しそうな顔をした。
「すまん」
俺が謝ると、里崎はまたため息をついた。
「……傷ついた」
そう呟くと、少し潤んだ瞳を、ちらりとこちらに向けた。
「僕は覚えてるのに君は全然覚えていないなんて、すごく傷ついた……僕を傷つけた責任はちゃんと果たしてもらわなきゃ困る」
「へ?」
一体どういう理屈だ?
俺は里崎の思考回路が理解できず、固まった。
この里崎の唯我独尊、他人にかしづかれることに慣れている感じ。
やはり俺はコイツが苦手だ。
そうこうしている間に、何故か里崎は俺の方に近寄ってきた。
「なっ」
思わず身を引くが、狭い倉庫だ。すぐに背中が本棚に当たった。
里崎は俺の顔を覗きこみながら言った。
「ねぇ、責任とってよ」
流石の俺も、里崎の言動に嫌気が差してきた。怒りを抑えきれず、大きな声が出てしまった。
「責任ってなんだよ、お前言ってることが無茶苦茶だ!一体何をさせようってんだ」
俺の大声にも驚く様子はなく、里崎は真っ直ぐに俺を見つめて言った。
「人の心を乱した罪だ、当然でしょ?」
そして、一呼吸おいてからゆっくりとした口調で言った。
「キスして」
「…………は?」
コイツは何を言っているんだ?
もうわけがわからなくなった。
里崎は動揺する俺を見て、煽るように言った。
「もしかして、キス、したことないの?」
「キスくらいあるわ!」
咄嗟にそう答えたが、今まで勉強一筋で生きてきた俺は、そういった経験が全くなかった。
「ふぅん」
里崎は俺の心を見透かすように、ふっと微笑した。
そして、白くて細い指で俺の頬に触れた。
「経験あるならいいじゃん、キスくらい、簡単にできるでしょ?」
「馬鹿なこと言うな!だいたい俺たち男じゃ」
男じゃねぇか!と怒鳴ろうとした瞬間、唇を柔らかいもので塞がれた。
「んっ」
突然のことに、完全に思考が止まった。
何度も角度を変えてキスをされる。
……長い。
その間、息を止め続けていた俺は、耐えきれなくなり、口を開いた。
「っ……んぁ」
その瞬間、にゅるりと柔らかい”何か”が口内に侵入してくる。その侵入者は歯列をなぞるように口内を一周したのち、俺の舌を絡め取った。
「ぅ、くっ……」
なんだこれ。
今まで味わったことのない感覚に、意識が飛びそうになる。
俺はいつの間にか、床に押し倒されていた。馬乗りになった里崎が、わざとらしく俺の股間に身体をすり寄せる。反応したくないのに、身体の中心に血が集まっていく感覚があった。
チュッと唇から俺の魂を吸い取るようにして、里崎は唇を離した。
俺はぜぇぜぇと肩で息をしながら、里崎の整った顔を見上げていた。
里崎は、俺の頬を愛しそうに撫ぜると言った。
「今日のところはこのくらいで許してあげる……でも、こんなんじゃまだ足りないよ、君はこの僕を傷つけた責任を負う必要がある」
そう言って里崎は水色の瞳を細めて、淫靡な笑みを浮かべた。
一体どうしてこうなった。
「……勘弁してくれ」
俺は情けない声をあげながら、里崎の美しい顔を見上げたのだった。

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