新しい扉

【お題:『名刺』『責任』『変態』】
【時間:ー】

◆◆◆

「〇〇商事 加藤と申します」
商談のためにやって来た会社で、滅茶苦茶好みの男に出会った。
加藤という男とは、今までメールでのやり取りはあったが、こうして顔を見るのは初めてだった。清潔感のある髪に、意志の強そうな目、スーツを来ていてもわかる鍛えられた締まった体、中低音の心地いい声。どれをとっても俺のどストライクだった。
ここのところ残業続きで疲労が溜まっていたが、そんなのが吹き飛んだ。
チームの代表としてこの商談の場にやって来たことは、この際どうでもよかった。この男との接点が欲しい。あれこれ仕事の理由をつけて会う回数を重ねて二人で食事に行き、あわよくば……。
「XXX株式会社 大谷と申します」
名刺を差し出すと、加藤は微笑して受け取った。
はぁーやっぱ好みだわ。
俄然やる気が湧いてきた。
絶対この契約取る!!!

「……大谷さん」
耳元でささやく声が聞こえた。
「大谷さん」
ああ、ずっと聞いていたい。そう思えるくらい聞き心地のいい声だった。
「ねぇ、大谷さん、ここからだと君の会社遠くない?始業時間に間に合う?」
体が重い。正直まだ寝ていたかった。
……今、何時だ?
「7時20分ですよ?」
どうやら無意識に声に出ていたらしい。クスッと笑いながら、その声の主は答えてくれた。
瞼を開ける気にもなれなくて、目をつむったまま聞いた。
「7時か……ってか、ここどこ?」
「XXXホテルです、赤坂駅近くの」
「……赤坂?どうして赤坂なんかに」
頭がぼんやりしていて昨日のことが思い出せない。
……赤坂?
そういや、あのあと、加藤さんに「赤坂に美味しい中華料理屋があるんです」と言われてついて行って、そのあと、二軒目にバーに行って、それから……。
……あれ?
俺は重い瞼をゆっくりと開いた。
「あ、おはようございます、大谷さん」
すぐ近くに加藤の顔があった。
「……えっ!!」
慌てて飛び起きる。そして自分の体を見て愕然とした。裸だった。それだけではない。ありとあらゆるところにキスマークがついている。それに……腰が異常に重い。ケツの中に異物感を感じる。これは、もしかしなくても……。
困惑する俺を見つめながら、加藤は爽やかな笑みを浮かべた。
「大谷さん、昨日とっても可愛かったな」
やっぱりか!!
まさか出会ってその日にヤれるとは思っていなかった。加藤も俺と同じお仲間だったのか。
しかし残念なことに、昨日のことがまったく思い出せない。
こんな好みの男とSEXできたのに、覚えていないなんて……勿体なさすぎる。
「最初は嫌がってたけど、最後のほうは凄く喜んでたよね?」
「え、一体どういう……」
「緊縛」
語尾にハートをつけながら加藤は答えた。
「えっ?」
慌てて確認すると、手首と足首には、縄できつく縛ったような跡がくっきりと残っていた。
「手持ちの縄が短くて、手足しか縛れなかったけど、今度は本格的なやつやろうね?」
手持ちの縄ってなんだよ。
初めて聞くぞ、そんなワード。ふと、ベッドサイドを見ると、茶色の縄が落ちているのが見えた。
「お、俺はそんな変態じゃねぇ!」
慌てて否定したが、加藤はふっと笑みを浮かべるだけだった。
加藤はじっと俺を見つめて、体を寄せてくると、俺の頬に触れ、そして肌を指で滑らすと、顎の下をくいっと持ち上げた。
その一連の動作に背中がぞわっとするのを感じた。抵抗したいのに、されるがまま、顎を突き出すような形になる。
「ほらやっぱり」
加藤はふっと笑みを受かべると、チュッと短いキスと落として、そのまま俺の体を引き寄せた。
「大谷さん、けっこう素質あると思いますよ?」
目の前で笑うこの男に好きにされたい、すべて預けてしまいたい、そんな衝動にかられている自分に気づき、驚愕するとともに、どうしようもなく興奮していた。

大谷ミチト、28歳にして新しい扉を開いてしまった瞬間だった。

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