戦略家

【お題:『チェス』『まとめ』『リスク』】
【時間:ー】

◆◆◆

授業を終えた私は、急いで教室を出て渡り廊下を抜け、生徒会室のドアを開いた。
「ああ、有馬さん、早いね」
副会長の吉澤先輩が出迎えてくれた。吉澤先輩はいつものように窓際の椅子に腰かけていた。その前にはミニテーブルがあり、そこにはチェス盤が置いてあった。
「会計報告資料まとめなきゃいけないので、急いで来ました!」
資料まとめなきゃいけないのは嘘ではないけど、本当は吉澤先輩と二人で話したいからだ。
チェス盤を覗き込んだ。
「チェスお好きなんですね」
「うん」
「私、こういうボードゲーム系苦手で……チェスって難しいんですよね?」
「いや、一度覚えてしまえばそれほどではないよ、確かに奥深いゲームだけどね」
先輩はそう言いながら、長くて綺麗な髪をひとつにまとめて後ろで縛った。
「こういう戦略を練るようなゲームは、現実世界での思考にも役立つんだよ。相手がどんな手で来るか、自分の行動は最善なのか、その行動にともなってどんなリスクが考えられるのか、とか」
「へぇ、そうなんですね」
先輩の説明でますますチェスは難しそうというイメージが濃くなってしまった。が、これはチャンスだ。
「あの、先輩」
「なんだい?」
「私にもチェス教えて貰いえませんでしょうか?」
先輩は私のお願いに笑みを返した。
「もちろんだよ」
ガチャッ。
背後でドアが開く音がした。
「ちーっす!あ、吉澤さん、有馬ちゃん、早いねー」
入ってきたのは田中先輩だ。
「やぁ、田中君、今日も騒がしいね」
「あ、ひっどー」
物静かな吉澤先輩とおしゃべりな田中先輩は、意外と仲がよかったりする。
ふと気づいたように吉澤先輩が私の方を見た。吉澤先輩は、内緒話するように口元に手を寄せて、いたずらっ子のような笑顔で言った。
「チェスはまた、二人の時に」
私なその笑顔に不覚にもドキリとさせられてしまった。

 

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