【お題:『ゆとり』『乳』『留守』】
【時間:ー】
◆◆◆
「ったく、この部屋暑すぎね?」
机に突っ伏した状態のシンヤはそう言って、目線だけ俺に向けた。俺の背には窓があるので、シンヤは少しまぶしそうに目を細めた。俺の部屋には西日がガンガンに差し込んでいる。一応カーテンはかかっているのだが、如何せん、安物のカーテンなので、完全に日差しをカットできていない。
「うるせぇな、エアコン壊れてるんだから仕方ねぇだろ!」
シンヤの顔の下には日本史の教科書が開いた状態で置いてある。俺の部屋に来て3時間が経過していたが、ページはずっとそのページのままだ。汗かいた状態でそんなことしたら、顔に張り付いたりしないんだろうか?
「うわっ!くっついた!」
そう思っていたら案の定、顔を上げようとしたシンヤの頬にページが張り付いて、その拍子にページの4分の一ほどが縦に破れてしまった。
「はは、バカだ」
俺がそう言うと、シンヤは一瞬睨んだが、すぐにどうでもよくなったらしく、自分のまわりに置いてあった教科書や筆記用具を乱暴に腕で押してスペースを作り、再びテーブルに突っ伏した。
「あー、勉強やる気でねぇ」
「余裕があっていいよな、指定校推薦のもらえた野球部エースは」
嫌味たっぷりにそういうと、シンヤは俺を見上げながら言った。
「バーカ、お前らがちんたら遊んでる間、俺は毎日毎日ツライ練習に耐えて頑張ってきたんだよ、当然だろ?」
そう言われると俺は何も言えない。実際、シンヤは野球に高校生活の殆どを費やしていた。鬼のようにモテるのに「野球に集中したいから無理」と片っ端から告白を断り、とてつもない練習量をこなしていたのを知っている。
「そういうお前は勉強しなくていいのかよ」
「俺は、名前さえ書けば受かるアホアホ専門しか受けないから」
俺がそう答えるとシンヤは「じゃあ、もう今日は勉強やめようぜ、だるいし」と言った。俺はシンヤの意見に同意し、勉強道具を早々に片付け出した。
ふとシンヤが言った。
「……そういえば今日は静かだな、ねぇちゃんバイト?」
「いや、彼氏と一週間沖縄旅行に行ってる」
この家はオンボロ木造アパートで壁が薄いので、隣の部屋からねぇちゃんの生活音が殆ど筒抜けだった。
「沖縄かぁ、俺も行きてぇーってか彼氏と旅行とかめっちゃエロいな、絶対毎日やりまくるだろ」
シンヤは少し鼻の下を伸ばしながらそう言った。うちのねぇちゃんは性格が壊滅的に悪いが、元モデルだった母親の遺伝子を受け継いだこともあり、かなり顔がいい。そのうえ、巨乳だ。だから、男には困ったことがない。男をとっかえひっかえしては、金を貢がせている。今付き合ってる彼氏は有名大学のお坊ちゃまで、黒髪に丸眼鏡をかけた奴で、どうやら学生起業家をやっているらしいので、滅茶苦茶金を持っている。ねぇちゃんは「今回の男は歴代で一番ブサイクだけど将来性はダントツ。私コイツと結婚する絶対」と言っていた。
「お前のねぇちゃん、性格クソだけど、おっぱいは最高だよな」
「……そうだな」
俺はシンヤの話を話半分に聞きながらスマホを開いてゲームアプリを起動した。
「なぁ」
「なんだよ」
「暇じゃね?」
「そうだな」
俺はガチャをまわしながらシンヤに相槌をうつ。
すると突然シンヤは言った。
「ちょっとねぇちゃんの部屋物色しねぇ?」
「は?」
スマホの画面から顔を上げると、シンヤはニヤリと笑いながら言った。
「親もまだ帰って来ないんだろ?じゃあいいじゃん、行こうぜ」
どういう理屈で、じゃあいいじゃん、と言っているのか。俺には理解できなったが、すでにシンヤの中で実行することは決まっているらしく、すくっと立ち上がって、戸を開けていた。
俺は、スマホをテーブルにおいて溜息をついた。
「正気かよ、ねぇちゃんに怒鳴られんのは俺なんだから、やめろよ」
シンヤは俺の言葉を無視して、部屋を出て行った。すぐに隣の戸を引く音が聞こえた。
「ったく」
俺はガリガリ頭をかいて、重い腰を上げた。
隣の部屋に入ると、シンヤはニヤニヤしながら部屋を見渡していた。シンヤは俺の方をちらりと見ると、押し入れを開いた。このアパートはクローゼットなんて小洒落たものはない。基本的に、洋服は押し入れのプラスチックケース中に入れる。
シンヤは迷うことなく、下着のプラスチックケースを開いた。
「うわっ!えっろー」
シンヤは興奮した様子でそう言うと、その中からピンク色のブラジャーを取り出して、自分の胸にあてた。
「でっか!!」
「おい、バカやめろ!」
俺はシンヤの頭を思い切り引っぱたいて、ブラジャーを戻した。
「いってぇな」
シンヤは頭をさすりながらそう言うと、今度は隣のプラスチックケースを開いた。
「ん?」
シンヤはケースの奥の方に手を突っ込んだ。シンヤは俺の方を振り向いてニヤリと笑った。
「へへっお宝みっけ」
シンヤが取り出したのは、ピンク色のローターだった。
「……」
知りたくもない身内の性事情を目の当たりにした俺は、もう止める気力も失せてしまった。
「ああ、もう勝手にやってくれ」
俺はドスンとベッドに腰かけた。もうシンヤの気が済むまでやらせよう。
「へへへっ」
シンヤは笑うと再び下着入っていたケースに手を突っ込んで、次から次へとブラジャーや下着を取り出した。
「やべぇ、なにこれ、ほぼ紐じゃん、ケツ丸見えじゃん!」
「お前が漁ったってねぇちゃんには言うからな」
俺は壁に背中を預けてシンヤの奇行を見届けることにした。
ふとシンヤは黒色のブラジャーと紐パンツを持ち上げてこっちを向いた。何故かシンヤは俺を見たまま黙っている。しかも真剣な顔で。
「なんだよ」
何故か嫌な予感がした。しばらくしてシンヤは言った。
「……これ、お前似合いそうじゃね?」
「はぁ?」
もう怒りを通り越して呆れてしまった。
シンヤは下着をもったままこっちに来ると、片膝をベッドに置いた。ぎしっとベッドのスプリングが軋む音がする。シンヤは俺の顔を覗き込むようにして言った。
「なぁ、これ着てみてよ」
「何言ってんだお前」
俺が溜息をつくと、シンヤは突然俺のシャツを掴んで、まくり上げた。
「お、おい!バカ!やめろ!」
抵抗するが、万年帰宅部の俺は腕っぷしでは、運動部のシンヤには敵わない。いつの間にか、ベッドに押し倒され、シャツは首のあたりまで捲り上げられてしまった。汗ばんだ肌が空気に晒される。シャツを戻そうとすると手首を掴まれて、あっというまに、頭の両脇でバンザイするような形でベッドに押さえつけられてしまった。シンヤの顔を見上げると、真顔だった。その顔に俺は一瞬ドキリとした。俺は、シンヤを睨みつけた。
「……っおい、やめろ!っあ!」
シンヤは俺の腕を無理やり頭の方に持っていくと、あっさりと片手で抑え込み、空いた手で、俺の胸に黒色のブラジャーを置いた。レースの生地が肌に当たってこそばゆい。
「……」
シンヤはそんな俺を真剣な顔で見つめている。俺はシンヤを睨みつけて言った。
「暑すぎて頭湧いちまったのか!お前ホモかよ!」
すると、シンヤは表情を変えずに言った。
「ああ、俺ホモだよ」
「……は?」
まさかの回答に俺は一瞬思考が止まった。今、こいつ、ホモだって認めた?
「……」
シンヤは何も言わないまま俺を見下ろしている。その視線に俺は居たたまれなくなった。視線をそらそうとする瞬間、シンヤがボソリと呟いた。
「お前それ似合うじゃん」
「は?」
再びシンヤを睨みつけた。
「かわいい」
俺を見下ろすシンヤの表情はどこか熱を孕んでいた。その顔見た途端、ドクンと心臓がはねた。それと同時に身体の中心に血がぐっと登る感覚がした。
ヤバい。
そう思った時には遅かった。シンヤは俺の股間に視線を落とすと、ふっと笑った。
「ははっ、勃ってるじゃん」
「ち、ちげえっ!あ、おい、なにすんだ、シンヤ!やめろ!」
シンヤは迷わず俺のズボンに手をかけた。そして、ゆっくりとこちらを見て、言った。
「いいじゃん、どうせ誰もいないんだからさ」

コメントを残す